狼たちのささやかなる休息

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 その言葉の真意が分からずに、土方は眉を顰めた。 「訳が分からん。どう言う事か説明しろ」 「『郷に入っては郷に従え』って事です。新選組は言わば烏合の衆。地方出身者ばかりで、京に詳しい人なんてほんの一握りしかいないでしょう」  確かに……己の脳裏に直ぐ浮かぶ人物と言えば、京に滞在経験のある斎藤一(さいとうはじめ)くらいのものだ。 「ねえ、土方さん。もし伺った先の奥方が、突然玄関先に箒を逆さに立てて、にっこり笑いながら『まだごゆっくりどうぞ』なんて言ったらどうしますか?」  沖田からの唐突な問に、土方は「う」と言葉を詰まらせた。 「そ、それは、好意を無にする訳にもいかんだろう。長居させて貰うかな」 「成る程。じゃあですね、お邪魔している最中に、しつこくぶぶ漬けを勧められたら?」 「ぶぶ漬け? 茶漬けの事か?」 「そうですよ。さあ、どうします?」  不敵に笑う沖田。  その態度に何か引っ掛かりを覚えながらも、土方は誠実に答えた。
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