狼たちのささやかなる休息

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 ***  きゃあきゃあと、元気で楽しそうな子供達の声が澄み渡った青空にこだまする。 「さあ、みんな。名残惜しいけどそろそろ解散にしようか」  子供に負けず劣らずと言った感じで遊びに興じていた、まだ年若いひとりの青年が声を上げる。  人より上背もあるせいか、小さな子供達の中でその姿は一際に目立っていた。 「えーっ、もう?」 「なあ、また遊んでくれる?」 「うん、勿論。また次も面白そうな所に連れて行ってくれると嬉しいな」 「分かった! ちゃんと考えとくから楽しみにしててな」  わーっと蜘蛛の子を散らすようにして子供達が各々(おのおの)の家へと帰って行く。  壬生寺(みぶでら)の境内から最後のひとりが見えなくなるまで、沖田総司(おきたそうじ)はひらひらと手を振り子供達を見送った。 「今日も収穫あり。さて、私も帰るかなあ」  指に引っ掛けた小さな巾着袋を弄びながら、ざりざりと砂利を踏みしめ歩き出す。  寺の門を出てすぐの所で、意外な人物が仏頂面で立っている事に気が付いた。 「あ、こんな所に鬼見っけ。と言うか、どうしたんですか土方さん。何だか潰された蛙みたいな顔になっちゃってますよ?」 「まったくてめぇってヤツは……出て来る比喩がいちいち嫌味なんだよ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加