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高瀬が新店舗に移ってから一か月がたった。
紗奈は高瀬がいない仕事場にも
慣れてきつつあった。
いまだに甘いカップルたちは
紗奈の心を揺さぶろうとする。
そんなとき紗奈は
ポケットに忍ばせた
高瀬からもらった指輪にふれて
心を落ち着かせるのだった。
紗奈が沈んでいても
ちいさなお菓子が現れ出ることはもうない。
紗奈は業務を終えるまで静かに耐えて
帰りに更衣室のロッカーにたまっていた
あめ玉やチョコをひとつずつ口に含んだ。
──もしこのちいさなお菓子が
尽きてしまったら?
紗奈はひと呼吸する。
──そのときは高瀬に会いにいこう。
高瀬は軽薄そうな笑みを浮かべながら
そっと紗奈の手をとるだろう。
紗奈のゆびにはめられた指輪に
自分のゆびを重ね合わせるはずだ。
それから、紗奈が求めるもののひとつくらい
高瀬は与えてくれるかもしれない。
fin.
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