四年ぶりの真実

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四年ぶりの真実

 私がスーパーで働き始めたのは二ヶ月前。  レジ打ちに慣れたとは言いにくい。私は大学があるため、土日祝しか出勤しないと決めている。一度に一つのことしかできないのだ。  またここは田舎。客は平均して一時間に2、3人ほどのペースでしか訪れない。あまりにも少ないため、久しぶりにお客様がくると、声が裏返ってしまう。 「いらっしゃいませ…ンン」 「あら、風邪?気をつけなさいよ、寒くなってきてるんだから」 「ハハ…そぅですね、」 別に風邪なわけではない。ずっと使ってなかった声を発したからだ。こんな勘違いをされるのも稀ではない。 「892円になります」 声の調子が戻った。 「はっぴゃく…なに?」 「きゅーじゅーにえんですねっ」 カタッ 視界の端にお客様が来たことを捉える。こういうときに限って来られるのがあたりまえ。人も少ないわけだからレジも私一人しかいない。次のお客はタクシーの運転手。早くお会計しないとイライラするタイプ。かといって、代金を頑張って出しているおば様を後回しにするのも失礼。 「レジ応援お願いします」 こんな時のためにそばにおいてある内線でそれを伝える。時間が空いていたのかすぐに駆けつけてくださった。少し会釈をしておば様の方へ目を向ける。 「ごめんなさいね、はい、895円」 「大丈夫ですっ、895円なので…3円のお返しですね」 「ありが「ありがとうね」ございます…」 「ありがとう」と言われるのは嬉しい。言葉が被ったときに少し恥ずかしくなってしまうからまだ慣れていない。  お客様を見送ったあと、レジ応援に来てくれた先輩(主婦の年齢だから呼び方に迷う)がこちらにやってきた。 「今日は人少ないから、リラックスしながらやってね」 そう言って、裏の業務の方へ戻っていった。すごく優しい。しかし、今日も、の間違いではないだろうかとおもってしまった。こんなことを考えてしまうのもお客様が少ないせいである。 「あ、雪」 そう呟いたあと、誰か聞いていないかと、少し焦って周りを見渡す。やはり誰もいない。 (懐かしい) 雪が降るのが懐かしいわけではない。そう、雪は関係ない。ただゆったりと流れる雪から懐かしい記憶がよみがえる。
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