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『お帰りなさい、馨』
それは麗らかな春の陽射しの如く、柔らかく温かく、聴くものの耳に優しく届く。
穏やかに晴れた日の眩しさや切なさをぎゅっと詰め込んだ、懐かしさそのものの声。
「只今帰りました、薫陸香」
振り返れば、そこには、
美しい飴色の瞳を持った白き獣が佇んでいた。
「またそんな格好で寝ていたの?薫陸香。
それじゃあ、ただの昼寝好きな老犬ですよ?」
暇だから、と年がら年中昼寝ばかりして、不健康極まりない。
少しは動いたらどうです?と呆れた声で問いかければ、少しムッとした顔で立ち上がった。
ふさふさとした白銀の毛が揺れる。
僕の身体を優に越える巨躯を、音もなく震わせて姿勢を正す。
鈍重さは欠片もない。羽根が生えたように、軽やかな動きで、くるりと回転した。
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