春の窓辺でまた会おう。

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課題のプリントに、小学校の卒業アルバムが埋もれてて、僕は舌打ちをした。こういった記憶の喪失の仕方は、あんまり好きではない。 分厚い卒業アルバムをプリントの波から救い出す。表紙には、明朝体で『陽光』と書いてある。 僕らの通ってた小学校の卒業アルバムは、毎年このタイトルをつかうことになっている。若葉色の表紙を撫でた。この色ってことは、姉のもののはずだ。何故こんなところにあるんだろう。 窓を開く。 カーペットも本棚も勉強机も根こそぎ持ってかれた自分の部屋。むやみやたらに広く見えて、ただ、まあ、明るいからいっか、ってよくわからない納得の仕方をした。 卒業アルバムを、窓際でぱらぱらめくった。小学生たちの笑い方はまるで太陽の光のようだった。 「あ、」 ふと指が止まる。明るい髪色。不思議な深さのある藍色の瞳。いたずらっ子みたいに何かを企んでる笑顔。仲良く肩を寄せあって笑うのは、幼い頃の僕の姉だ。運動会の時の写真。 泣くんじゃないかと思った。 「宵ねぇと、……僕」 宵ねぇと姉のあいだで、徒競走で一等賞になった記念の金メダルを掲げて笑う僕がいた。三人で写った写真なんて、珍しい。姉ちゃんと宵ねぇの写真ならたくさんあるのだけど、年の離れた僕だけ、いつもそこにはいなかったから。 なつかしいなぁ、と笑いながら呟けた自分が少しだけ意外だった。 プリントをまとめて捨てて、掃除機をかける。数年前、高校の時に好きだったあの音楽を流す。メロディはピアノ。春を待つ冬の歌だった。 明日の明日はきっと未来だから 未だ知らないなにかが来ても きっと春に会えるだろう あゆむー、と階下から姉が自分を呼ぶ声がした。掃除、終わり。そろそろ出立の時間だ。 窓辺には、アルバムが置きっぱなしだった。 あの写真だけもらおうかと考えて、やめる。あゆむ、と姉の声がする。今行くよ、とだけ返事をした。窓辺に寄る。若葉色のアルバム。あの人の笑顔みたいな色のアルバム。 いいや、持っていく必要なんてない。 もうこの胸にきちんと仕舞いこんだ。 空っぽの部屋を出ていく。今日僕は姉の元から離れて、宵ねぇの思い出から離れて、この街を出て行く。
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