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「あんたって、宵のこと好きだった?」
「え? うん」
「彼女にしたかった?」
「はぁ? え? そういう?」
「そういう」
赤信号。取り澄ました顔で、わたしはCDを入れて、音楽を流し出す。ピアノのメロディラインが綺麗だから気に入ってるバンドの曲が流れ始める。
「え? えー……」
「まぁ気軽に答えてよ」
「うん……」
歩が答える前に青信号になる。また発進。もう道程の半分は来ている。隣町に引っ越すとはいえ、感慨深いものがある。そんな日に聞くのがこれ、なんだけど。
「宵ねぇとだろ」
「うん」
「想像出来ねぇや」
「そう」
「うん……や、わかるけど。クラスメイトとかに仲良いのバレたらからかわれてたし、そういう選択肢もあるのも分かってたけど」
「うん」
「なんだろう。そういう風に名前を付けたくなかった。宵ねぇは宵ねぇのままで、そのままで大事だったから……なんか恥ずかしいな」
「いや、そんなことないでしょ」
「なんでこんなこと聞いたの」
「……、宵って、たまにびっくりするくらい寂しいこと言う子でね」
指先を春の色に染めるのはどうして? 寒いから。今日夏じゃない。寒いよ。だって一人ぼっちだもん。
「たぶん、あんたは知らないと思うけど。宵のお父さんとお母さんにあんまり会ったことないでしょ。二人とも忙しい人だったし。わたしたちが中学校卒業したらぱーっと海外に飛んでちゃうような感じで」
「へぇ……」
「だからかな。たまに、こう、ふっと表情がさめるの。楽しくないからじゃなくて、楽しいから、で」
さり気なさを装って目尻の涙を払う。泣かない方だと思うんだけど、宵のことを思うと今でも少し泣けてしまう。
「三人で、ご飯食べてるじゃない。あははってみんなで笑ってて、あーおかしかったってご飯に目を戻す時に宵の方を見たら、泣きそうな顔してるの。そしたら決まってわたしの方見て、なぁに深知、どうしたの? って。なんてことないような顔して」
歩はきょとんとしている。そうこれは歩の知らない話。わたし以外誰も知らない話。なんで話すんだろう。宵がこんなことを歩に知って欲しいはずもないんだけど。
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