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 このへんの店には詳しくないはずの八奈見は適当に近くの店に入った。そこは落ち着いた雰囲気の居酒屋で、テーブルごとにきちんと仕切りがあったのでお互いの会話がよく聞こえるのが助かった。相談話をするにはちょうどいい。  そして照明の下でテーブルを挟んで八奈見と向かい合って初めて気づいた。  あ、この人イケメンだ。  夜道ではよく確認できなかった顔をはっきり目の前にすると、夏芽はさっきとは別の意味で硬直しそうになった。どうりで道すがら通行人が時々ふり返っていると思ったら美形だったのか。どのくらいかというと、かなりだ。女性的と言われる夏芽とは正反対の男性らしい完璧に整った顔立ち。相当モテそうだ。  あまり直視したくない。なんとなくくやしい。見下されている気がして落ち着かない。 「好きなものを頼め。酒が飲めるならそれでもいい」  品書きに目を通しながら言い放たれる。最初から思っていたが、八奈見は小気味いいくらいに堂々と、すっぱりとした物言いをする。年下の夏芽が相手だからというより、普段から誰に対してもこんな感じのような気がする。  結局夏芽は烏龍茶だけ頼んで、あとは彼にまかせた。 「あの」  ドリンクとお通しが運ばれてから夏芽は静かに切りだした。それまではほぼ沈黙だった。 「何?」 「色々訊きたいことがあって」 「何について?」  まったく躊躇のない即答が返ってくる。訊かれてまずいことなど一ミリもないかのように。
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