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「通常なら断る。そんなに暇じゃない。頼まれたから仕方なくだ。だから一銭も取らないんだろ」
この言葉で初めて今日の相談は本当に料金が発生しないのだとわかり、心底ほっとした。だがそれを言うと馬鹿にされそうなので黙っておく。
「お金も取らない、仕事でもないのに、何のメリットがあるんですか?」
正直な疑問に、あっけらかんとした回答が降ってくる。
「メリットなんてあるわけないだろ」
身も蓋もない言葉を発しておきながら、当の本人は何の怒りや不満の感情は発せられていない。
メリットなんてない? なのになんで? それともなんらかの義務や強制力が働いているのだろうか。
「頼まれたっていうのは、佐田のお兄さんに?」
「そう。時々こういう面倒を持ちこまれる」
「面倒…」
「ああ、迷惑極まりない」
面倒。迷惑。
そんなふうに言われて、どうやってこの後相談を持ちかけたらいいのか。夏芽は二の句を継ぐ勇気を逸した。そして、なんだかむかむかと腹が立ってきた。そんなに嫌なら最初から受けなきゃいいじゃないか。
「佐田は学生時代に色々世話になったから、あいつからの頼みは極力断りたくない。それだけのことだ。今回の君の相談内容だって詳しくは聞いてないが、いくら俺が法律に明るくても、問題を解決してやれるわけじゃない。いや、むしろできない可能性のほうが高い」
今までの短い回答が嘘のように、すらすらと弁が立つ男を前に、夏芽はぽかんとして聞き入った。
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