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「俺の仕事は裁判官だって言っただろ。弱者の味方、弁護士先生じゃない。だから君に同情するとか、親身になって嘘くさい希望を植えつけたりもしない。真実しか言えない。法律は人が作った穴だらけの産物で、万能じゃないから必ずしも弱者を救えない。つまり、俺に相談話を打ち明けたところで君は問題を解決できないどころか、不愉快な思いをして帰ることになるかもしれない」  それは困る。 「それが嫌ならここで食事だけして帰ったほうがいい。収穫をえられないどころかムカついたり失望したりしてもいいなら話を打ち明けてみればいい。俺は責任を取れないからな。自分で選択してくれ」  相談する前にそんな赤裸々な本音を提示するということは、夏芽が無駄な時間を使わないように気を遣ってくれているのか。もしくは、八奈見自身が無駄な時間を過ごしたくないということだろう。 「どちらを選ぶ? ちなみに俺はどっちでもいい」  目の前でジョーカー入りのカードを二枚差し出されているような最悪な気分だった。 「どっちでもいいっていうのは」 「君がどうなろうとどっちでもいいっていう意味」  わかっていたけれど改めて明言されるとむっとくる。 「何をむっとしてるんだか。訊いたのは君だろ」 「そう、だけど」 「だけど?」  ここまで相談に責任を取らないとか、無駄な時間を使いたくないなどと言われて、気にしませんから相談させてください、などと言える者はそう多くないだろう。 「俺には期待しないほうがいい。君が思ってるよりずっと、大したことない人間だから」  さらりとした卑下を、謙虚だとは思わなかった。  正直な人だな、と思った。  だって大概において、誰も誰かを救ったりはできないからだ。  自分が誰かを救えないように、他人にだって期待しない。  諦めることには慣れている。  さあ、どうする?
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