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「相談、させてほしいです」  淀みなく告げると、八奈見は何故かふっと微笑を見せた。迷惑と言った割にそこまで不快そうでないのでほっとする。  そして一呼吸置くと夏芽はこれまでの経緯を訥々と語った。八奈見は相槌を打つでもなく、共感するでもなく、ただ淡々と聞いてくれていた。  大筋を伝え終えると彼は、わかった、とだけ言った。 「…で、相談は、この敷金礼金家賃を全額返してもらうことができるかっていうことなんですけど」  結論を言うまでもなく八奈見は悟っていたようで、特別表情を変えないまま、きっぱりと明言してきた。 「まあ、無理だな」  清々しいほどの否定。それは夏芽の脳天を稲妻のごとく突きぬけていった。  予想していたはずの言葉なのに、ああ、と項垂れて落胆する自分がいる。 「法律うんぬんは別としても、まずその夜逃げした大家を捜すところから始めるわけだろ。どうやって見つけ出す? 債権者だって血眼で捜しても見つけられないものを」  そのとおりだ。 「弁護士に依頼したら探偵だの興信所だのプロを雇って見つけてくれるかもしれないが、雇う金はどうする? そもそも新居に引っ越す金さえないから敷金礼金を諦めきれなくてこうなってるんだろ。支離滅裂だと思わないか?」  まったくそのとおりだ。 「仮に捜しだせたとして、破産申請後だったら? 破産免責といってこうなるともう債権者はお手上げで、債務請求ができなくなる。それ以上どうこうできるのか?」  まったくもってそのとおりでございます。ああもう反論の余地さえない。  八奈見は当初の予告通り、こちらに希望を持たせるとか提案してくれることなどない。彼の意見は限りなく現実に近く、どうしようもない事実を突きつけることによって夏芽に諦めさせようとしているのだろう。
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