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「通常こんな少額の訴訟は司法書士に依頼するレベルで、訴訟が通れば相手の給料差押なんかもできるし取り返せる可能性が高い。が、今回は請求したい相手の所在が不明というのが一番のネックだ。そして訴訟に勝ったとしても支払い能力があるかどうかもわからないという点もリスクが大きい」 「……」 「それでも請求するのであれば、君と同じような債権者がこぞって民事訴訟を起こすことになるだろう。裁判に用する費用はそのほとんどが弁護士費用で、それなりにかかる。訴訟を起こした者全員で折半だ。しかし君以外に訴える者がいなければ単独になる。君に親がいればまた話が違う。訴訟を起こす金を捻出してもらえるからな」 「……」 「何を言いたいのかわかるか? 金を取り返すためには、また別途金がかかる。そして相手が破産免責となれば取り返せる可能性は極めて低い。哀しきかなこれが世の摂理だ」 「……」  そこで八奈見は皿に載った生春巻にフォークを刺すと、唐突に夏芽の口に突っ込んできた。  もごご、と結構なボリュームと圧迫感のあるそれを頬張り、咀嚼に励むと、しでかした本人は口角を上げているのが見えた。 「さっきから何で一口も食わない? そのガリガリ体型と顔色の悪さは、普段どうせ飯もろくに食ってないんだろ」  ガリガリは元々で、顔色は…、と言い返したかったが、口の中は生春巻で溢れていたし、その指摘もまちがってはいなかったから果たせなかった。  それでも子供のころよりは健康的な体型になったほうだ。超未熟児で生まれたため発育が悪く、高校生になるまでは鶏ガラのように痩せ、人から気持ち悪がられたくらいだったから。  しかし、その口に入れられたものを咀嚼すると、胃が温まり、食欲も出てくるのがわかった。  何故今日は、こんなにも料理を美味しく感じてしまうのだろう。人と一緒に食べているから? いつもはもっと安い店だから? 奢りだから? 答えはこの中のどれか、あるいはすべてかだろう。でも他にもっと違う理由があるような気がして、不可解なままぱちぱちと瞬きをくり返す。
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