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「起きたか」  八奈見だった。先ほどと違い、スーツは着ていない。  いやそもそも、スーツどころか私服さえ身にまとっていない。バスローブ姿だった。まるで風呂上がりに見える。というよりもむしろ、風呂上がりなのだろう。胸元にかけてわずかに水滴が肌を滑り落ちているなまめかしい様が見える。  夏芽は女ではないのだから、半裸に近い状態の同性に対して通常なら特に何も感じることはないが、今回は何故か照れるというか恥ずかしいというか、なんともいえないむず痒さが走った。  えーと、まず、これは何だ?  どこから、何から、質問すればいい? 「八奈見、さん。ですよ、ね?」 「他に似ている他人がいるのか」  そういう意味で聞いたんじゃない。 「いえ。あの、ここは…?」 「憶えていないのか? 経緯を一から説明するのは面倒くさいな」 「あ、じゃあしなくても、別に」 「しなくてもいいんだな?」  ふーん、と流されそうになって焦る。いやいや、何も知らないままでは困るだろう。 「して…ください」  おずおずと申し出ると、まじまじと見つめられたので、思わず半歩引いてしまった。 「卑猥な意味に聞こえる」 「!」  セクハラのような指摘をあっけらかんと放たれてしまい、反射的に赤面する。そして睨む。  じゃあどう言えばよかったというのだ。  睨まれても平気らしい八奈見は恬淡とした説明をくれる。
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