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「安心しろ。他に誰もいない。一人暮らしだ」 「凄い部屋ですね。ドラマとかに出てきそうな」  お世辞ではなく本音だ。こんな部屋に入ったことがないから不躾に部屋中を見渡すばかりしてしまう。田舎者、いや貧乏人丸出しもいいところだ。 「こんなわざとらしくだだっ広い部屋、俺の趣味じゃない。近親者に頼まれて借りているだけで、居心地がかんばしくないのは君と同じだ」 「いえ、別に居心地は悪いわけじゃないです」 「在宅できる時間が少ないから掃除も業者に依頼している。だから余計に自分の部屋だという気がしない」  掃除もできないほど忙しい仕事なのか。裁判官というのはそういう職種なのか。公務員だから定時で帰れる仕事ではないということらしい。  いや、そもそもこんな部屋に住めて掃除代行を頼める時点で金があるということではないのか。いくら人に頼まれたからってタダで住めるはずがない。八奈見はそれ相応の収入があるということだ。特に金持ちになりたいという野心はないが、こういう生活を垣間見ると、国家資格を持つ職種というのも悪くないのかも、などと思ってしまった。 「そんなにお忙しいのにすみません。相談させてもらって…いや、それどころかいきなり倒れて。病院まで連れていってもらって。しかも部屋で寝かせてもらって…」  というか、このベッドももしかして八奈見が使っているものでは?  ああこうして列挙するだけでも、とんでもなく大迷惑をかけてしまった。  項垂れていると、慰めるという空気はまったくなく、やはりあっけらかんと返されてしまう。
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