11211人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺がそんなことをいちいち気にするタイプなら、そもそもここまで運んでこない」
「はあ」
「だから今から帰れなんて非情なことを言うつもりもない」
「はあ」
「せめて朝まで休んでいけ」
「はあ?」
大変有り難い言葉だけど。そんなに甘えてしまっていいのだろうか。八奈見の生活に支障はないだろうか。これ以上迷惑をかけたくはないのだが。
「もう終電もない。すぐに帰宅してまたぶっ倒れられても困る」
どう困るというのだろう? 夏芽が倒れたところで、八奈見の責任になることはないと思う。
「ただでさえ仕事上陰惨な事件にばかり立ち会ってるんだ。これ以上屍を増やしたくない」
屍…。アパートで息絶えた自分の姿を想像して、それは決して遠い現実ではなかったのでぞっとした。
「わかりました。朝までベッドお借りします。起きたらすぐ出ていくので」
これ以上この男の好意に楯突く理由もなかったので、素直にそう申し出た。
が、それを快諾してくれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!