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「俺がそんなことをいちいち気にするタイプなら、そもそもここまで運んでこない」 「はあ」 「だから今から帰れなんて非情なことを言うつもりもない」 「はあ」 「せめて朝まで休んでいけ」 「はあ?」  大変有り難い言葉だけど。そんなに甘えてしまっていいのだろうか。八奈見の生活に支障はないだろうか。これ以上迷惑をかけたくはないのだが。 「もう終電もない。すぐに帰宅してまたぶっ倒れられても困る」  どう困るというのだろう? 夏芽が倒れたところで、八奈見の責任になることはないと思う。 「ただでさえ仕事上陰惨な事件にばかり立ち会ってるんだ。これ以上屍を増やしたくない」  屍…。アパートで息絶えた自分の姿を想像して、それは決して遠い現実ではなかったのでぞっとした。 「わかりました。朝までベッドお借りします。起きたらすぐ出ていくので」  これ以上この男の好意に楯突く理由もなかったので、素直にそう申し出た。  が、それを快諾してくれなかった。
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