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「あなた…?」
しまった。夏芽の正体を八奈見から聞いていないなら、こちらは不審者以外の何者でもない。焦った夏芽は追及を振り切るように説明にならない説明を残し、足早に部屋を出た。
「あの、怪しい者じゃないです。昨日八奈見さんに相談を聞いてもらって、もう帰るところですから。すみません、失礼しました」
「あ、ちょっと待って…!」
ドアが閉まる直前に彼女の引き留めるような声が耳に届いたが、聞こえなかったものとして小走りにエレベーターまで向かった。追いかけてこないので助かった。
あ、いやいや。やましいことは何もないのだから堂々としていたら良かった。もし変に思われて通報でもされたらそのほうが大ごとになるかもしれないのだし。
ちょっと走っただけで目眩がした。やはり体調はまだ完全ではないようだ。今度はのろのろとした足取りで携帯で地図を確認しつつ駅まで目指した。
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