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「そうだ、忘れないうちに」
おばあちゃんは1枚の小さな紙きれを私に手渡してきた。
「これは……」
「しぐれ煮の作り方だよ。私はいつもそうやって作ってるの」
その紙には丁寧な字でレシピが書かれていた。それを読むと、やはりネットで検索して出てきたレシピとは少し違った。おばあちゃん独自のレシピだ。
「ありがとう。これで作ってみる」
「今度はうまくいくといいね」
「うん」
鞄にレシピをしまっていると、看護師さんが病室に入ってきた。
「お邪魔してすみません。体温とか血圧測らせていただきますね」
私は看護師さんに挨拶をして、おばあちゃんに声をかける。
「それじゃあ私そろそろ帰るね。また来るから」
「うん、今日はありがとう。気を付けて帰ってね。あ、栞ちゃん」
おばあちゃんは立ち上がった私を呼び止め、ベッドサイドに置いてあった携帯電話を手にもってにっこりと笑った。
「メールもありがとう。すごく心強かったよ」
その後もおばあちゃんが退院するまでの間、他愛のないメールのやりとりを続けた。
そしておばあちゃんが無事退院して家に帰ってきた日の夜、私はもらったレシピ通りに牛肉とごぼうのしぐれ煮を作り、おばあちゃんに振舞った。
おばあちゃんは嬉しそうにそれを食べながら「おいしい」と何度も言ってくれた。大げさなんだからと思いつつ私も食べてみたけれど、それは確かに私がそれまで作ったことのある料理の中で間違いなく、一番においしかった。
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