誰もいなくなった部屋

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 5.    なんとなく予想していたが、浮気の相手は彼女の妹だった。  いくらストーキングしても尻尾を出さないとすれば、浮気現場が彼女の家である可能性が濃厚だし、仮に一緒にいても不審ではない人物というと、身内ぐらいしか考えつかない。  妹は姉からも信用されていたし、逐一連絡も取り合っていて行動も把握していたわけだから、彼氏を見張ってもまあわからないだろう。  イヴの日、予定より早く帰った彼女を、妹と彼女の恋人は裸で迎えたそうだ。  そして妹はこう言ったらしい。 『こんなに早く帰ってくると思わなかった』  動転した人間特有の、妙に冷静というか間の抜けた言葉だと思う。  それから家を飛び出して、当てどなく街を彷徨い、自身で言ったように死のうかと思ったところで、俺のことを思い出して踏みとどまったらしい。  俺は徹頭徹尾、彼女に余計なことしかしなかったと思っているが、まあ死ななかったというのは、たまには役に立ったのだなと思ってもいいはずだ。  
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