誰もいなくなった部屋

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 6.  そしてクリスマスが終わった後、年末進行の忙しい時期に俺は今、総合病院の待合室にいる。  手持ち無沙汰にしていると、産婦人科の方から靴を鳴らして近づいてくる女を見えたので、立ち上がった。 「すみません、付き合ってもらってしまって」  ウエストを絞った服を着ていて、こんなに細身の人だったのかと驚いた。コートを着ている姿しか見たことがなかったから。 「身体は、その……平気なんですか」 「そんなに警戒しなくても大丈夫です。麻酔も抜けましたし」 「そうですか」  今までのぼんやりとした様子が嘘のような、はっきりとした話し方に戸惑う。  憑き物が落ちたような表情という言葉があるが、まさにそういう感じだ。  元気そうには見える。  けど、無理していないということはないだろう。  腹の中にいた子供を下ろしたのだ。実の妹と浮気していたとはいえ、愛していた男との子供をである。  少なくとも、赤の他人である俺に付き添いを頼んでくるぐらいに、いろいろな意味でダメージは大きかったはずだ。  晴れやかな表情をしていても気を遣う。そういう危うさが今の彼女にはある。     
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