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2.
部屋に戻ると、既に電灯のついている部屋がある。
開けっ放しになっている、部屋の戸から中を覗くと、窓に向かってじっと座っている女の後ろ姿があった。
前の彼女が思い直して戻ってきた、というわけではなく、別人だ。
部屋の中でも黒のロングコートを着こみ、手には双眼鏡を持って、熱心に外を見ている。
街中でこんな姿の女に出くわしたら、まあ関わり合いになりたくないと思うだろう。どうして怪しい奴ほど怪しい格好をしたがるのか。
そんなのが今、俺の部屋にいる。
彼女とは共通点がないわけではないが、基本的には赤の他人。
気安く声を掛け合う仲ではないが、今のところ邪険にする理由もない。
おそらく夕飯はまだだろうから、余っている弁当を渡したいが、どう呼びかければいいのだろうか。
考えあぐねていると、彼女の方が俺の気配に気づいたようで、双眼鏡から目を外して振り向いた。
「……どうぞ」
そこに俺は弁当を渡す。
「どうも……」
受け取りながら、困惑気味の表情には、こんなことをして貰う義理なんてないのに、と書いてある。
「お仕事、お疲れさまです」
そして俺もそんな風にねぎらってもらう義理はない、って顔をしているだろう。
お互いに一線を引きたい、徹底的に他人の距離感だった。
「何か収穫ありましたか?」
そんな二人が会話しようとすると、そんな朴訥としたものになる。
俺は声を掛けたことを早くも後悔し始めていた。
「いえ、」
半端に答えて、ちらちらと窓を見ながら双眼鏡を構える。
煮え切らない返事に、はっきりとしない態度。
この女に出会ってまだ数日だが、俺は早くもうんざりしていた。
ふわりとウエーブがかった髪、男が好みそうなナチュラルメイクで、上目遣いにこっちを窺ってくるような控えめであざとい仕草。
常に男の態度を窺っている、そういうタイプの内気で気弱な女。
単にそういうのが俺の好みでないというのは些細な話。
単刀直入に聞くことが出来ない性格が、回り回って関係のない人間をトラブルに巻き込んでいるのが、問題だと思っている。
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