誰もいなくなった部屋

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 彼女は一体何かというと、端的に言えばストーカーだ。  この部屋の窓から、向かいのマンションにある男の部屋がよく見えるので、双眼鏡を使って覗いているのだ。  一応断っておくと、そんな犯罪みたいな行為に手を貸すのは本意じゃないし、この女も最初から俺の部屋に転がり込んできたというわけじゃない。  彼女を最初に見かけたのは二週間ほど前。暦の上ではまだ11月だった。  時折、近所の公園などをうろうろしている、コートの女がいる、という認識はしていた。  仕事の行き帰りや、買い物に出たときやたらと目に付く場所にいて、たまに双眼鏡を構えたりしている姿を、不審には思っていたが、特に害もないので放っておいた。  しかし、それが毎日、時折深夜にまでいるとなると、まあ、トラブルは避けられない。  ついに警官に職質されている場面に遭遇してしまった。  仕事の帰りだった。何も俺が通った道で職質されなくてもいいのに、と煩わしく思い最初は通り過ぎようとした。  しかし、身体を捩るようにして庇いながら質問を受けている彼女の姿を見て、また余計なことを考えてしまったのだろう。  前の女にも、余計な詮索ばかりすると、ウザがられていたのに。     
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