誰もいなくなった部屋

4/15
前へ
/15ページ
次へ
 気付けば俺は警官と彼女の間に入っていた。 「その人、どうかしたんですか?」  唐突に話しかけてきた俺に、警官は怪訝な表情を浮かべた。 「あなた、知り合い?」 「いえ、知らない人ですけど」  はっきり言うとは思っていなかったのか、警官の困惑は大きくなる。 「いやね、こんな時間にフラフラしてるから」  と言い訳のように経緯を説明し始める。フラフラしてるのがダメなら、大抵の人がダメだろう。その女が怪しいのが問題。しかし、はっきりとは言えない日本語の難しいところ。 「着てるものもお洒落だし、デザイン関係の人とかじゃないんですか? この辺の風景よく見に来てる人ですけどね」  俺はもっともらしいことを言った。  警官の反応は、ふーんあっそう、という感じだったが、なんとなく納得したようで、気をつけなさいよと言い置いて去っていった。 「あの……すみません」  警官の姿が完全に見えなくなってから、女は口を開いた。控えめに頭だけ下げるような礼をする。  しかし、一向にその場から動こうとしない。  すぐにこの場を去ろうとするのが、この場での人間の心理だと思うのだが、彼女にそんな気はないようだ。誰よりも不安そうに瞳は揺れているのに。それよりも優先すべき使命があるらしい。     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加