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気付けば俺は警官と彼女の間に入っていた。
「その人、どうかしたんですか?」
唐突に話しかけてきた俺に、警官は怪訝な表情を浮かべた。
「あなた、知り合い?」
「いえ、知らない人ですけど」
はっきり言うとは思っていなかったのか、警官の困惑は大きくなる。
「いやね、こんな時間にフラフラしてるから」
と言い訳のように経緯を説明し始める。フラフラしてるのがダメなら、大抵の人がダメだろう。その女が怪しいのが問題。しかし、はっきりとは言えない日本語の難しいところ。
「着てるものもお洒落だし、デザイン関係の人とかじゃないんですか? この辺の風景よく見に来てる人ですけどね」
俺はもっともらしいことを言った。
警官の反応は、ふーんあっそう、という感じだったが、なんとなく納得したようで、気をつけなさいよと言い置いて去っていった。
「あの……すみません」
警官の姿が完全に見えなくなってから、女は口を開いた。控えめに頭だけ下げるような礼をする。
しかし、一向にその場から動こうとしない。
すぐにこの場を去ろうとするのが、この場での人間の心理だと思うのだが、彼女にそんな気はないようだ。誰よりも不安そうに瞳は揺れているのに。それよりも優先すべき使命があるらしい。
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