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「誰を見張ってるんですか」
「……どうしてですか?」
驚いたように目を開く。
俺もさしたる確証があったわけじゃない。
「景色を取りたいなら、自分が動けばいい。でも動かないなら、景色以外のものを見てるんじゃないか、と思っただけですよ」
単純な、推理とも言えない理屈だ。
「はぁ……」
どうやら監視対象と無関係だと分かった時点で、彼女の関心からは外れたらしい。
すぐにうわの空になって視線を逸らし始めた。
話を続けるべきかどうか、俺は迷ったが、現状一番の懸案事項を無視することは出来なかった。
「どうするんですか?」
「え……」
しなくていい心配をしているよな、と心底思っていた。
「電車はもうないですよ。近くの人じゃないでしょ?」
「あ……」
何しろ、俺が乗ってきたのが終電だったからだ。始発まであと4時間以上ある。
「この辺の人じゃないでしょ?」
「そうですね」
聞いているのかいないのか、判然としない彼女の態度に、早くも嫌気が差していたが、この寒空の下、彼女を放り出していくわけにもいかない。
幸い部屋は余っていることだし。
「電車がくるまで、僕の部屋で待ちましょう」
「え? ええ……」
どうしていいかわからないというような反応。
結局俺は半ば強引に彼女の冷たい手を引いて、部屋に向かっていた。
女は抵抗しなかった。
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