誰もいなくなった部屋

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 恋人に出ていかれて何日も経たないうちに、もう別の女を連れ込んでいる。気が咎めなかったわけじゃないが、すぐにどうでもよくなった。  それから女を座らせて暖房をつけて……。  恋人の持ち物で、残りが大量にある紅茶を出した。  俺は紅茶が好きではなかったが、ストックがあって捨てるのも勿体ないので、度々飲んでいる。  消化するには丁度いい機会だと思ったのに、 「いい香りですね」  と言ったきり、彼女は紅茶に手をつけなかった。  それからいろいろと話す――俺の一方的な質問に、気まぐれに彼女が答えるだけという会話とは言えないようなやり取りをした。  ぽつぽつと、締まり切っていない蛇口から零れる水のように、断片的な情報を吐き出す薄い唇の言うことを総合すると。  1、彼女はストーカー。  2、相手は現在交際している彼氏。  3、浮気をしている気配があるが、直接聞けないので監視して確かめようしている。  という事だった。  すぐ近くに男の部屋があるので、女を連れ込んでいないか、見張っていたということだった。  呆れたことに、男の浮気を確かめるために、仕事も辞めてしまったらしい。   直接問いただせば、仕事も辞めずに済むだろうに、よほどの覚悟か、何か別の理由があるのか。  話していても、うわの空で、 「ここからよく見えますね……彼の部屋」  なんて言っている彼女の姿を見ていると、もう好きにしたらいいって気分になる。  浮気されたよしみで(嬉しくはないだろうが、お互いに)、合鍵まで渡して部屋を貸してしまってしまった。  どうかしているのは、どっちもどっちだろう。  女は俺がいる間も、夢中で男の部屋を監視している。  そんなでも誰もいないはずの部屋に人がいると言う状況は、どこかで俺をほっとさせていた。  
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