誰もいなくなった部屋

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「何かわかりましたか?」 「え……」  急に聞かれたから、というよりも何を聞かれているのかわからない、そんな驚き方だった。 「浮気の相手のこと」  俺が付け加えると、ああ、と天井を仰いで。 「いいえ。それらしい人は、まったく」 「本当にいるんですか?」  根源的な話だ。全てが彼女の思い過ごし、ということは十分にあり得る。まあ、仕事も辞めてしまっているので、引き返せないというのもわからなくはないが。 「いる、はずなんです。でもいない方がいいと思います」  どうしても心にある確信を捨てきれないのか、あるいは……。 「彼氏が自分の部屋以外に浮気相手を連れ込んでいる可能性は?」 「お昼は彼の仕事場で見張ってますから、それはないと思います」   俺の部屋にいない間も、彼氏がどう動いているのか追跡しているのか。  ここ数週間、彼氏の言った場所には大概ついていったという。  見上げた根性だと呆れる。
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