誰もいなくなった部屋

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誰もいなくなった部屋

 1.  習慣だからついやってしまうだけか、あるいは心の奥に見えなくしたつもりの未練が身体を操ったのか。帰りに寄った弁当屋で、俺は知らず知らずのうちに、弁当を二つ買っていた。  もう彼女の分は必要ないのに。  ポイントつくのにもったいない、とよく言われた小言の通り、クレジットカードまで使っているところに呆れ果てる。  こういうのは全て、部屋にいた彼女と一緒に追い出してしまいたいと思っているのに、ちょっと油断するとこうだ。  ……まあいいか。  ここ最近の俺は、一事が万事そういう投げやりさに包まれた生活をしていた。  自暴自棄とまではいかないまでも、すぐにどうでもよくなってしまう。  原因はもちろん、付き合って5年、二人住める部屋まで借りて同棲していた恋人と破局したから。  理由は彼女側の浮気だが、それも俺から見た場合の話で、あいつにはどうもそういう感覚はなかったらしい。  最初から本命の男というのがいて、しかし少しランクの高い男なので、ダメだったときのために『キープ』されていたのが俺。  浮気ではなく、安全策。  付き合ってやっているのだからむしろ奉仕。  どうやらそういう感覚だったらしい。  そして俺が、生意気にも浮気を疑い出したから出ていった。  一体どういう神経をして他人の人生を自分の都合で『キープ』なんて出来るのか、1から10まで自己中心的な女だ。  とは思うものの、それを攻められる資格が俺にあるかと言われれば、これも微妙で。  結局、あいつが出ていったことで、一番心に引っかかっているのは、借りた部屋をどうするんだという部分。もっと言えば、別れるなら金を使わせる前にしてくれればよかったのに、ということだからだ。  恋人を失ったというより、損をしたという感覚の方が俺の中では重要視されているようだ。それでも時折彼女がいた頃の習慣を思い出すのは何なのか。  今更どうにもならない気持ちと共にため息を吐き出すと、それは冬の夜を白く濁らせてから消えた。  ひとまず、間違えて買った弁当が、今日のところは無駄にならないだろうというのは、ほっとするところでもあり、また頭の痛い問題でもある。  
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