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砂浜が赤く染まりだした。波に映った太陽が千々に千切れ、砂浜に向かって伸びてくる。小瓶探しに没頭しているうちに、すっかり日暮れになってしまったのだ。本来の目的、流木の収穫はゼロだった。でも、こんな面白い宝探しなら、いつでも歓迎だ。
あとは帰りがけに、妻に頼まれた宝くじをショッピングモールの売場で買って……
あっ!
もちろん偶然だとは思うが、当然、期待値は上がる。
「そうよ、間違いないわ! わたし、宝くじが当たる初夢をみたのよ……。大黒様が、宝くじをプレゼントしてくれたの! それであなたに頼んだんだけど、宝くじを買うのなんて、5年ぶりなんだから!」
僕の持ち帰った小瓶を見て、妻が興奮して叫んだ。何を皮算用しているのか、ブツブツつぶやきながらリビングの中を歩き回っている。
「そうだ……。前祝いに、お寿司を食べに行きましょう! こういう時は、とにかく気分を盛り上げた方がいいのよ!」
妻は、クローゼットからウールのコートを引きずり出してきた。すっかり当選したつもりになっている。でも、妻の浮かれ気分に便乗するのも悪くない。外れていたとしても、発表日までは十分幸せな気持ちに浸れるからだ。
宝くじ当選という体で寿司屋に来ているのだから、当然気分が大きくなる。2人でカウンターに座り、普段注文しないようなネタ、大トロやアワビ、ウニやヒラメを次々に平らげていった。さらに、身がプリプリに膨れた生牡蠣を食べ、魚貝に合うと勧められた純米酒をしこたま飲む。
伝票を見たときには、椅子から転げ落ちそうになったが、宝くじが当たっているという体なのだから、取り乱してはならない。
翌朝、念のため、残りの瓶を探しに砂浜へやってきた。
今日は妻も一緒だ。昨日の酒が残っているのか、2人とも胃のあたりがむかついている。でも、気分は上々だ。何しろ宝くじが当たっているはずなのだから。一晩寝て、その想いは益々強くなっていた。
残りの瓶は、呆気なく見つかった。夜のうちに波に揉まれ、姿を現したのだろう。まるで2人を待っていたかのように、砂浜の真ん中で鎮座している。
4番目の瓶はオレンジ色だった。今までの瓶より、美しく輝いて見える。
「宝くじ、宝くじが……」
ボクは期待を込めて、コルク栓を抜いた。
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