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 モグラは初音の誘いを断り、マンションを出た。辺りはもう暗くなりはじめ、風が少し冷たい。三月も末だというのに、春の気配を感じることはない。  日が出ている間はまだいいが、夜がくればとたんに冷え込む。  桜の開花宣言が少し前に出されたが、春の気配が未だ遠いせいか、どこか季節外れに感じる。  モグラはネオンを見つめる。煌々と灯る夜の光。凝視しても、目に違和感を覚えることはない。日の光だけが、モグラの目を白く覆う。いずれフィルムが燃え落ちる時のように、白い光が視界すべてを覆い、目を焼くのではないか。そんなことをモグラは思う。  モグラはサングラスを懐にしまい、人込みの中へと歩き出した。  一週間後。モグラはアメヤ横丁の中にある一軒のブティックに足を運んだ。洒落たコートから龍の刺繍がはいったジャンパーなどが乱雑にならぶ店だ。カウンターには一人の黒人がおり、本を読んでいる。 「読書中すまない」  ちらりと黒人がモグラの方を見た。 「久しぶりだなカーヴァー」 「あんたを見かけない方が平和なんだそのその方がいい」  カーヴァーは立ち上がり。笑顔で手を差し出した。モグラはその手を握る。 「道具は?」 「用意してある。ちょっと待ってろ」     
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