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 彼はスティーブン・カーヴァー。初音が飼っている武器屋のひとりだ。初音が利用している密輸ルートから武器を仕入れ、それをこうして渡し、処分も担当する。モグラはカーヴァーとは特に親しい。互いに読書が好きだという共通点があり、時折本の話をランチやディナーがてらにすることもあった。  モグラは読む本を選ばないが、カーヴァーはゲーテやチェーホフなどを好んで読んでいた。初めてレイモンド・カーヴァーの本を読んだ時、自分がカーヴァーの家に生まれたことになにかしらの運命を感じたということを酒に酔うと毎回話していた。 「ほら」  箱を手渡される。いつも通りだ。普通に開けるとダミーが出てくる。箱が二重になっているのだ。仕掛けを解除すると、銃が出てくる。内容によって受け取る武器は違うが、大体は二インチのリボルバーだった。 「気を付けてな」 「ああ。そういえば、何読んでたんだ?」  カーヴァーは本を手に取り、ブックカバーを外した。  今日も外は寒かった。人込みの中を歩けば熱気で額に汗がうっすらと浮かびはするが、時折吹く風がやはり寒い。  モグラは行きかう人の間を抜けながら、クラブを目指した。  目的地が見える。あらかじめ裏口があるということを聞いていた。裏手へまわると、ガラの悪い連中がたむろしていた。 「なんだあんた」  モグラは答えず歩を進める。見張りがいることも予想通り。 「もう夜だぜ? なんでサングラスなんかかけてんだよ」  バカにしたように見張りの一人が言う。 「目が弱いんでね」     
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