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「いってぇなぁ……
あぁ、いてぇ……」
おっさんは体をさすりながらぶつぶつ言っている。
栞はほんの少し申し訳ない気持ちになっていたが、まだおっさんが怪しいことに変わりはない。
クロスの先端で牽制しつつ詰問する。
「あ、あんた誰よ!うちで何してるの!?」
おっさんは「あ?」という口の形で一瞬止まった後、急に改まったようにきちっと起立して、身なりを整えて、言った。
「こんばんは。
サンタさんだよ」
「……」
「サンタ」
「……」
栞は一層力を込めておっさんを叩いた。
「いてぇ!いてぇって!」
「そんな馬鹿みたいな言い訳で何とかなる訳ないでしょ!?
何考えてるのよ!!」
「嘘じゃねぇ!!本当なんだって!」
そんな子供騙しで納得できるわけがない。
栞はサイドボードの携帯を手に取った。
「警察に電話する!」
これには流石のおっさんも慌てた様子だ。
「待て!それは困る!」
おっさんを無視して電話をかけようとする。
「分かった!これを見ろ!
お前の親父さんからのプレゼント!
これをお前に届けに来た!」
おっさんはどこから出してきたのか、プレゼントボックスを差し出している。
「ーーえ?」
今度は栞が動揺する番だった。
携帯が手から床に滑り落ちる。
なんだって?
お父さんからプレゼント?
栞は一瞬、言葉の意味が理解できずに固まった。
そして言葉が理解出来てくると、一気に心がざわつき、掻き乱された栞の心の底から、怒りと悲しみが噴き出してきた。
「そんなわけないでしょ!!!!!」
胸の底から、栞の心を焼き焦がしながら噴き出た感情は、おっさんに罵詈雑言として降り注いだ。
何を言っているのか自分でもわからない。
ただ悲しくて、苦しくて、溺れるように息を吸って言葉を吐いた。
栞の父親は去年のクリスマスに亡くなったのだ。
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