サンタのおっさん

8/13
前へ
/13ページ
次へ
原因は交通事故。 そして交通事故の原因は、些細な栞のわがままだった。 当時、栞は16歳で高校生になったばかりで、もう半分は大人の仲間入りをしたと思っていた。 それなのに、クリスマスに父親が栞に贈ったのは大きな熊のぬいぐるみだった。 栞は怒った。 子供じゃないんだから、こんなの要らない。 そう言ってプレゼントを突き返した。 すると父親は一瞬悲しそうな顔をした後で、 「ごめんな。そうだね。もう高校生だもんな。プレゼント、買い直すよ」 と言った。 栞にはそれがまた嫌だった。 本当は悲しいのに隠してしまうところや、明らかに栞のわがままなのに、父親の方から謝ってしまうところが、栞の心をチクチクとつついた。 その後、栞は自分の部屋にこもった。 部屋の窓から父親が車で出かけて行くのが見えた。 父親を見送ったのは、それが最後。 プレゼントを買った帰りに、事故を起こしたのだ。 そんな日に限ってホワイトクリスマスで、視界も路面も悪い状態だったらしい。 それ以来、栞は自分を責め続けている。 もしも自分があんなわがままを言わなければ、父親は亡くならなかったのだから。 今年も家族3人でクリスマスを過ごしていたに違いないのだから。 事故から一年が経ち、周囲の人間の励ましもあって徐々に立ち直り始めてはいた。 唯一の懸念が今日、この日だったのだ。 クリスマスを乗り越えることが出来れば、きっと大丈夫。 そんな気がしていたのだ。 それをこの妙なおっさんがぶち壊した。 栞は絶望にも似た気持ちで床に崩れ落ちて泣いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加