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ーゆうちゃんみたいな『子』のつく古い名前を『しわしわネーム』って言うんだってー
そう言われたのはいつだったか。
いつからか自分の名前が『古風』と言われることに少しずつ傷ついて、あの一言はトドメとなったのを覚えている。
父はあまり、母のことを話したがらない。…と、私は思っている。母のことを尋ねると、父はいつも悲しそうな顔をした。ゆえに、あまり母のことは聞いてはいけないと幼心に思ったのだ。
しかし、名前のことがコンプレックスになってから、一度父に名の由来を聞いたことがある。が、驚いたことに父も正しい由来は知らなかった。生前、「名前は優子にする」「意味は産まれてから教えるわね」と言っていたそうなのだ。ただ「優しい子になってほしい」とは常々言っていたそうなので、そういうことじゃないかと父は話していた。
もしそうなら、『優』という字があれば別に『優美』『優希』など、ほかに候補もあっただろうに。
「お母さん、どうして私は『優子』になったの?」
遺影の中の母に問いかけても、当然答えは返ってこなかった。
*
我が高校の文学部は、二年が四人、一年生が五人の総勢九人。一般的に知られている小説などの執筆活動をする文芸部と違い、読書を楽しみレポートを書いたり、おすすめ図書を発表し合うというのが主な『読書会』のような集まりだ。執筆活動をする部員もいるがそれも絶対ではない。
おすすめ発表会は、某テレビ番組のナントカ芸人のように盛り上がり、文学部の活動の中ではそれが一番の楽しみだったりする。
そして発表された図書の中から厳選した作品を、毎月部員のおすすめ図書として壁新聞を作成し、廊下の掲示板に張り出して紹介している。
今は星野先生の受け持つ一年五組の教室を借りて、六月の壁新聞制作を終え、一年生を先に帰し、二年で教室点検をしている時、香花が不意に言い出した。
「優子、来月誕生日じゃん」
ふと思い出したように、香花が作業の手を止めて話しかけた。
「プレゼントは図書カードにする? それとも誰の何の本がいい?」
「あ、じゃあ私はブックカバーにするよ」
「別にいいけど、プレゼントの中身割れてるってサプライズ感ないね」
しかも本関連の一択しかないのか、と続けてツッコミを入れた。
「へー、藤田は六月生まれなのか。俺も六月なんだよ」
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