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声の方に振り返ると、入口の所に星野先生が立っていた。施錠をしに来たのだろう。先生の指に教室の鍵が引っかかっていた。
「先生も誕生日なの? 何日? 何歳になんの?」
教師相手に友達みたいに香花が聞くのを、私は心の中で苦笑した。当の先生はまるで気にせずに答えている。
「俺は十日だ。年齢は極秘」
「何ですかその妙齢な女性教師みたいな回答」
心春が言うと、先生は気だるそうな顔で答えた。
「若いってだけで生徒になめられたりするんだ。故に俺の年齢はトップシークレットにしている」
「それ効果ありますか?」
「知らん」
本当に変な教師だな、と優子は心の中でぼやいた。
先生は模造紙に目をやると、あーこれにするのかと本のラインナップを見ては、「この本のこのシーンが好きで」「このキャラクターがいい」など感想をもらしている。
とんとん、と肩を叩かれ振り返ると、詩望が紙の束を差し出してきた。
「出来たポップって優子に渡しとけばいいの?」
壁新聞とは別に、文学部のおすすめ図書コーナーを常時置かせてもらっている。そこに本屋などでも見かける、本と一緒に紹介文を書いて立てるポップというものを作成するのも私たちの活動の一つだ。
詩望からポップを預かると、妙な視線を注がれているのに気づいた。
「詩望って優子のこと名前で呼んでたの?」
香花の目付きが獲物を見つけた鷹のように鋭くなった。
「知らなかったっけ? 私と詩望、小学校から一緒なの。昔から名前呼びだったよ」
「えー! 今更幼馴染設定とかぶち込まないでよー! 文学部にはそういうリア充な空気いらなーい!」
「いや設定じゃなくて…まぁいいや」
キャラクター的に一番リア充に近い種族の香花に言われたくないが、そっとしておこう。
「決めたー! テスト終わったら優子と先生の誕生日会しよう! 二人にデートなんかさせないぞ!」
「いやだから違うんだけど…まぁいいや」
香花の思考回路は私には永遠の謎だ。『どうしてそうなった』は彼女には愚問なのだ。ゆえに、香花が言い出したら止まらないことを、この場にいる全員がよく知っていた為、謎の誕生日会は開催されることとなった。
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