3

3/9

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
薫は講義室に着くと、最前列の端に腰掛けた。いつもなら学生達は後ろの席から座っていき、薫の隣に誰かが座ることは滅多にない。 しかし、その日は違っていた。 「あれ? エリとおんなじ部屋の人じゃない?」 薫は声のした方に顔を向ける。そこには長い髪を一つに束ね、眠そうな目をした人物がいた。どこか見覚えのある顔だ。薫が記憶を辿っている間に、その人物は薫の隣にするりと座ってきた。 (…誰…あっ、昨日絵莉子ちゃんを部屋に連れてきた人だ) 「思い出した?」 薫の表情を見ながら、彼女は唇の端を上げて笑う。 「…昨日の人?」 「うん、そうだよ。あの後大丈夫だった? エリ、だいぶ酔っ払ってたけど」 「別に大丈夫」 薫は素っ気なく答えたが、彼女は気にせずに話を続ける。 「ごめんね~、うちのバンドのメンバーがご迷惑をお掛けしまして」 (うちの、バンドの、メンバー) 薫は彼女の言葉を心の中で繰り返し、理由はわからないが不愉快な気持ちになった。絵莉子は自分の知らない世界で、自分の知らない誰かたちに大切にされている。そのことをまざまざと見せつけられた気がした。 「別に、大丈夫」 薫は先程と同じ言葉を繰り返した。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加