23人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
薫は講義室に着くと、最前列の端に腰掛けた。いつもなら学生達は後ろの席から座っていき、薫の隣に誰かが座ることは滅多にない。
しかし、その日は違っていた。
「あれ? エリとおんなじ部屋の人じゃない?」
薫は声のした方に顔を向ける。そこには長い髪を一つに束ね、眠そうな目をした人物がいた。どこか見覚えのある顔だ。薫が記憶を辿っている間に、その人物は薫の隣にするりと座ってきた。
(…誰…あっ、昨日絵莉子ちゃんを部屋に連れてきた人だ)
「思い出した?」
薫の表情を見ながら、彼女は唇の端を上げて笑う。
「…昨日の人?」
「うん、そうだよ。あの後大丈夫だった? エリ、だいぶ酔っ払ってたけど」
「別に大丈夫」
薫は素っ気なく答えたが、彼女は気にせずに話を続ける。
「ごめんね~、うちのバンドのメンバーがご迷惑をお掛けしまして」
(うちの、バンドの、メンバー)
薫は彼女の言葉を心の中で繰り返し、理由はわからないが不愉快な気持ちになった。絵莉子は自分の知らない世界で、自分の知らない誰かたちに大切にされている。そのことをまざまざと見せつけられた気がした。
「別に、大丈夫」
薫は先程と同じ言葉を繰り返した。
最初のコメントを投稿しよう!