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講義とバイトが終わり部屋に帰ってからも、薫の胸の奥ではもやもやとしたものが燻り続けていた。
習慣である読書をしても、気が散ってしまう。仕方なしに薫は部屋のテレビをつけた。丁度映し出されたのはバラエティ番組で、タレントの笑い声が部屋に響き渡る。
(…うるさい)
薫がテレビを消した瞬間、ドアの音が鳴った。
「おかえりなさい」
「ただいま!」
絵莉子は部屋に入ってくるなり、何か話したそうな顔をして近づいてくる。
「嬉しそうな顔して、何かあったの」
「薫ちゃん、今日ユキノに会ったんだよね?」
薫は一瞬、絵莉子が何のことを言っているのかわからなかった。しかし今日の出来事を思い返すと、ある人物の顔が浮かんできた。
「…講義で話しかけてきた人?」
「そう! 雪乃から聞いたよ」
薫の胸で燻り続けるもやもやとした不快感が大きくなる。絵莉子はそれに気付かず話し続ける。
「雪乃、薫ちゃんのこと『クールビューティ』って言ってたよ! 褒められたじゃん!」
いつもなら絵莉子の軽口を笑って受け流すところだが、薫は何故かそんな気分になれなかった。
「あんまり馴れ馴れしくされるの、好きじゃない」
絵莉子から笑顔がなくなり、表情が固まる。
「…話しかけられるの、嫌だった?」
「別に、そういうわけじゃない」
「どうしたの、何か怒ってる?」
「怒ってない、おやすみ」
薫はそのまま布団に入り、ベッドのカーテンを引いた。しばらく横になっていたが眠れなかった。後悔の念が薫を苛む。
枕元に置いてあるデジタルの目覚まし時計が目に入る。時計には時刻と日付が表示されている。その日付を見て、昨日が絵莉子の誕生日であったことを思い出した。
(誕生日、忘れないようにしてたのに、結局おめでとうも言えないままだ。それどころか子供みたいに拗ねて八つ当たりした。私は何をやっているんだろう)
薫はそれからもなかなか寝つけず、夜中に何度も目を覚ました。
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