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その日の二限目は、ドイツ文学科専門の講義だった。授業を受ける学生が少ないため、広くはない講義室にも関わらず席はあまり埋まっていなかった。
薫はいつもと同じように、最前列の一番前に腰掛ける。
「薫チャンもこの授業とってたの?」
急に声が聞こえたため顔を上げると、昨日絵莉子と同じバンドだと自己紹介していた人物、雪乃がいた。
(……この子、なんでしれっと私のことを名前で呼んでるんだろう)
顔を見ずに頷くと、雪乃は昨日と同じように薫の隣にするりと座り、カバンを探った。
雪乃はノートを机の上に出してからも、長い間カバンを探り続けている。薫がちらりと隣を見ると、雪乃は少し困った表情になっていた。
「もしかして、ペン忘れた?」
「……あらっ、よくお気付きで」
薫の方から話しかけられたことに驚いたのか、雪乃の目が少し丸くなる。
薫はペンを机に出し、雪乃の方へと滑らせた。
「これ、余分に持ってるから」
「えっ、いいの? ありがと〜う」
へらりと笑いながら、雪乃はペンを受け取った。
「さすが薫チャン、エリから聞いてた通りに優しいね」
絵莉子の名前が出ると、薫の肩は少し跳ねた。
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