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薫が何も言えないまま荷物を置くと、絵莉子がキーボードを叩きながら話しかけてくる。 「今日ほんとはサークル行きたかったのに、ゼミの発表の準備終わらないよ」 嘆きの声を上げながら、絵莉子は手を止めてテーブルに突っ伏す。 「……ああ、だから今日は早く帰ってきたんだね」 そう言いながら薫は荷物を置き、テーブルの脇に腰掛ける。部屋の中には絵莉子がキーボードを打つ音だけが響き渡った。 する事もないので、薫は机の上に明日の講義で使うテキストを出す。ちらりと絵莉子の方を見ると、ゼミの資料作りに集中しているようだ。 「……昨日、ごめんね」 絵莉子は手を止め、首をかしげる。 「え、なんのこと?」 「なんのこと、って……」 薫は絵莉子の言葉をおうむ返しする。 「その……昨日話してたときに、キツい言い方したこと……」 ああ、と絵莉子は納得した顔をする。 「なんというか……昨日はちょっと疲れてたから……」 歯切れ悪く言い訳をする薫を見て、絵莉子は微笑んだ。 「薫ちゃんは律儀だね、話してるうちにちょっとキツい言い方になるときなんて誰にでもあるのに」 「え……そうなの」 薫は思わず拍子抜けした。 「でも、そういう律儀なところ、わたし好きだよ」 絵莉子はそう言った後、再びパソコンに向き直る。 「……そう言われると思わなかった」
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