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机の上のファイルを探りながら、ふと絵莉子は薫に聞いた。 「そういえば、その講義って雪乃も受けてるやつだったりしないよね?」 尋ねられて、薫は手を止めた。 「受けてるやつ……だね」 それを聞いて、絵莉子の顔がパッと明るくなる。 「じゃあ、雪乃に聞いてみたら?」 その手があったか、と薫が一瞬思ったが、しかし問題点があるのを思い出した。 「連絡先を聞いてなくて」 「私が教えるよ。……ほら、今送ったよ」 薫のスマートフォンが振動する。メッセージアプリを開くと『山岡 雪乃』という文字が表示された。 メッセージを送ろうとして、薫の指先は躊躇いながら空を彷徨う。 「そんなに構えなくても大丈夫だよ」 絵莉子が心配そうに顔を覗き込んでくる。 「こういうの、あまり慣れてなくて」 薫は情けない気持ちになった。他の人ならば、テスト範囲を知人に聞くなど簡単に出来ることなのだろう。しかし人付き合いを避けてきた薫にとっては容易ではなかった。 「お互い様だから大丈夫だよ。薫ちゃんも雪乃にペン貸してあげたんでしょ?」 絵莉子に励まされ、薫はのろのろと文字を打った。 『急にすみません。絵莉子ちゃんから連絡先を聞きました。ドイツ文学の課題のプリントをなくしてしまったので、見せてもらえませんか?』 送信を押すと、すぐに既読がついた。 『ほーい!』 画像が送られてくる。薫はほっと溜息をついた。 「すぐに返事がきたよ。ありがとうね」 「じゃあ解決だね!」 絵莉子は破顔する。 「薫ちゃんには助けてもらってばかりだから、役に立てたみたいで嬉しいよ」 上機嫌な様子で、絵莉子はレポート課題のためにパソコンの準備をする。 (違う、助けてもらっているのは私の方。いつだって) その思いをうまく言葉に出来ず、薫は黙って散らかった部屋を片付けた。
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