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花火が終わってから、周りで座って見ていた者達は次々に立ち上がって駅へと向かい始めたが、二人はその場に座ったままでいた。帰ろうという気にはなぜだかなれなかった。
花火の余韻で、二人の間には沈黙が訪れている。薫はそれを心地よく感じていた。
今なら何でも話せそうな気がする。ずっと言えなかったことも、聞けなかったことも。薫はそう思った。
「絵莉子ちゃん」
「ん? なあに?」
「聞きたいことが、ある」
「どうしたの、改まって」
花火が消えた後の空を眺めていた絵莉子が、薫のほうに向きなおる。
「絵莉子ちゃんは……私のこと、どう思ってる?」
少し間を開けて、絵莉子は苦笑しながら答えた。
「その質問は、ちょっとずるいよ」
「そう……なのかな」
「それに、前に言ったじゃん。私が薫ちゃんをどう思ってるのか」
薫はそう言われて、絵莉子の発言を思い返した。
「『大切だ』って言ってくれたよね」
「繰り返されると恥ずかしいんですけど……」
絵莉子は照れたように俯く。
「ぎゃ、逆にさ、薫ちゃんは私のことどう思ってるの?」
普段のんびりした口調の絵莉子にしては珍しく、早口でまくしたてられる。
「それは……前言った通り、特別な人……でも」
「でも?」
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