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そしてその日も、薫と絵莉子は顔を合わせることがなかった。薫はその日の朝のバイトにも授業にも、何故だか上の空のまま過ごした。 心ここにあらずの状態で廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。 (この声、もしかして) 大勢の笑い声にかき消されながらもかすかに聞こえてくる声は、絵莉子のものだった。絵莉子は数人の友人と共に談笑している。薫は反射的に近くの教室に入り、身を隠した。 とっさに絵莉子を避けたことに驚いていたのは、薫自身であった。 (挨拶ぐらいしても大丈夫だったはずなのに。きっと絵莉子ちゃんは気にしない) 薫は、誰もいない教室のドアにもたれかかった。 (他の友達とか、サークルの人とかといるときの絵莉子ちゃんの顔をあまり見ないからかも知れない。…私とは違う世界で生きてるって、感じてしまうから)
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