216人が本棚に入れています
本棚に追加
/505ページ
「……明日も会社だし、また出直してくるわ」
蒼大は若干胸を押えながら、母親に告げた。
「はい、これ」
「どうしたの?」
「お祝いのケーキ。大介が帰ったら食べさせてやって」
「大ちゃん、出掛けてて良かったわ」
フフフ、と母親は愉快そうに笑いだした。
「何でそんな事いうんだよ。俺本当に会いたかったのに」
「だって、あの子……甘い物苦手だから。忘れてた? うっかり? もし居たら、大好きなお兄ちゃんのプレゼントだから、黙って一生懸命無理して食べちゃうわ」
「……あ!! そうだった!!」
盛大にミスったショックで膝をついた蒼大の手から、母親はケーキの箱を取った。
「蒼ちゃんありがとう。ちゃんと大ちゃんには『お兄ちゃんがお祝いにきてくれた』って伝えておくわよ。
ケーキは母さんが喜んで戴くわ。丁度久しぶりに解禁の日に、いいタイミングだわ~」
「 久しぶり? 解禁? ダイエットでもしてたの?」
ケーキの箱を見てきゃっきゃと喜んでいる母親を見て、少し落ちた気持ちが救われた蒼大が、様子を見て疑問を投げかける。
「大ちゃんが合格するようにって、母さん何も出来ないけど、好きな甘い物断ちして願掛けしてたの。願い叶ったから、今日から解禁。
そういえば、お友達も何か願掛けしてくれてるって大ちゃん言ってたわ」
「そうなんだ……よかったな……」
(俺、何もしてない。そんな事、思いもつかなかった……)
蒼大は辛うじて愛想笑いを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!