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「にしても、急な受験だったな」
「そうねえ。でも無事に受かっておめでたいから良いじゃない」
「そりゃそうだけどさ。にしても、義輝も補習頑張ってくれてたらしいけど、大介が大学行きたいって言ってすぐ塾か予備校通わせてやりゃ良かったのに。そしたらランクましな所に、もう少し楽に行けたかもなのに」
「お友達にもお勉強教えて貰ってる、って言ってたわよ」
「え? そうなんだ。でもそんな、素人よりちゃんとした所でさ。あの子……勉強苦手だろ? 高校は運良く受かったけど、成績そんな良くないんだし」
「蒼ちゃん、」
再び母親に名を呼ばれ、蒼大は話途中で止めた。
「本人が言い出しても無いのに、今頃塾に行かせて急に勉強出来るようになるの?」
「それは……わからないだろ?」
「そんなにすぐ簡単に出来るようになったりしないわ。あの子が、すぐ簡単に勉強苦手になった訳じゃないのと同じよ」
「どういう意味……」
「あの子、小さい時は勉強に興味示してたじゃない。覚えてるでしょ?『兄ちゃんお勉強したいの! 教えて! これどうなるの?』って毎日。
鬱陶しそうに無視して、邪険にして一度も相手にしてあげなかったのは、どこのどなたかしらね~。代わりに、と思ったけど……母さんじゃダメだったのよ。
『兄ちゃんが良い』って聞かなくて。それが、いつの間にか勉強の事、したいって言わなくなった」
ドキッ
グサッ
「……」
蒼大は項垂れた。
いつもピントが合わない天然母の癖に、たまに痛恨の一撃を食らわされる。
こういう時、 母親 を痛感する。
「あら、蒼ちゃんが落ち込む事はないわよ。蒼ちゃんは放っておいても勉強する良い子だったから、出来ない子の気持ちは解らなくて当然だし。
人それぞれで、大ちゃんは今のままで充分だと母さん思うし。
でも……今になって、蒼ちゃんがとやかく言う権利も無いわよ」
母親はにっこりと微笑んだ。
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