初めての贈り物

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特に大きなイベントもない、 平々凡々な31歳、サラリーマンの人生。 唯一の癒しといえば、仕事を終えて家に帰ると 玄関で出迎えてくれる妻と、3歳になったばかりの愛娘だけ。 ここ数日、会社全体が思うように仕事がはかどらず、残業や早朝出勤が続いた。 やっと一区切りつき、同僚たちが飲みに誘ってきたが、そんな気分にはなれず早々に帰路についた。 時間は既に22時を過ぎており、妻は起きていたとしても娘は寝ているだろう。 「今日も会えるのは寝顔だけ、か・・・。」 小さく呟いて、小さく溜息を吐いた。 家に着き、ドアを開けながら「ただいまー」と言ってみる。 おかえりなさーい、という妻の声が返ってきた。 「起きてたのか?」 「えぇ、ちょっとね。」 意味ありげにニコニコしながら、ビールとつまみを出される。 着替えてからリビングに座ってビールを飲んでいると。 「今日は起きてるんだ、って、ずっと聞かなかったのよ。」 ふふっと笑って隣に座る妻。 すると、折り紙を2つに折った何かを差し出された。 「何?これ。」 「まぁ、とりあえず見てみなさいな。」 言われた通り、受け取って、折り紙を開く。 【ぱぱへ  おしごと がんばってくれて ありがとう!  ずーっと だいすき!】 覚えたてであろうひらがなで、一生懸命に書いたような、娘の字。 疲れが和らいで、自然に笑顔になっていたようで。 「喜んでるみたいで良かった、お手紙だけでもって一生懸命だったのよ。」 そうか、と短く返事をして、しばらく手紙を見つめてから元の通りに折りなおして財布にしまった。 まだ幼い娘からの、初めてのプレゼント。 父親になってよかった、いい子に育ってくれてよかった。 改めてそう感じることができた日だった。
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