新月

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2017年、冬。 「どうして私だけが捨てられないといけないの!?」 クリスマスが終わり、年末の買い物や帰省の準備で人々が忙しくなる頃。 クリスマスを経て出来上がったカップルと破局したカップルはきっと同じくらいなのだろうが、目の前に座ってる女性は破局した方だったらしい。目を真っ赤にして泣き叫ぶ彼女を、通りすがりの人々が一瞬ちらっと気にして、見てはいけないとばかりに目をそらしていく。 東京郊外の月詠山駅前には大きなデパートが立ち並び、ささやかではあるがイルミネーションが輝くメインストリートにはたくさんの人が行き交う。 駅ビルの2階部分に改札があるため、人々が行き交う歩道橋の下にバスターミナルがある。 カフェなどの比較的若い層が集う通りが駅前通りであり、そこから一本細い道に入ると駅前商店街があり、比較的シニア層も通る。 商店街の中央付近に縁結びの神社があり、私の仕事場はその神社脇にある小さなスペースだ。 友達の書道の教員に書いてもらった見栄えだけは立派な『手相占います』の看板。 看板とはいえ半紙に描いてもらったものをそれらしく見える額縁に入れて飾っているだけ。 簡易テーブルに真っ白なクロスをかけて貧相な机を隠し、特に意味もなく水晶玉なんかを置いてある。  黒いワンピースにコートをはおり、寒空の中ボーッと過ごしているのがこの私だ。 25歳。彼氏なし。 平日は本屋を営んでいるが、活字離れが叫ばれる中、なかなか繁盛はしない小さな書店。 午後七時には店を閉め、八時頃から『月兎』の名前で気まぐれに占い屋を開く。 もともと心理学を大学で勉強していたこともあり、カウンセリングまがいのことをするだけの知識はあった。 あまりにも本屋が暇すぎるし、趣味みたいな気持ちで占い屋を始めたのだが、これが結構評判がよかった。 縁結びの神社前ということもあり、この場所のは色々な事情を抱えた人達がやってくる。 ゲリラ的に開催している私のささやかな相談会は、稼ぎ時なんかは本屋の売上を超える時もある。
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