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まだ少し湿っているレインコートを脱ぎ、ベンチにかける。改めてベンチに背をあずけるようにして座り、のんびりとタバコを味わう。時間の流れが、妙にゆっくりに感じられる。男は、ぼんやりとする意識の波に身をあずけた。 それから、どれほどの時間が経ったのだろうか。 すぐ近くに、気配を感じた。 男は、気配のする方を見る。目の端に映ったのは、スカートから伸びる白い脚だった。 男は、何本目か分からぬタバコを口から離し、身を起こした。 「なにか用か?」  白い脚の女は、若い娘だった。制服を着た、長い黒髪の少女である。髪は微妙に湿っていて、それが妙に艶かしかった。 「……」  少女は、じっと男の方を見つめているばかりで、何も言わなかった。男も、少女の目を見つめるだけで、何も言わなかった。ボウリング場に響くピンを倒す音と、申し訳程度に置かれているゲーム筐体の電子音だけが、二人の沈黙を際立たせている。  タバコの灰が、ぽとりと男の足元に落ちた。男は短くなったタバコをベンチの傍らに置いてある灰皿に捨てた。 「女子高生にじっと見つめられるってのは悪い気はしないがね、変な誤解をされるのも嫌だし、用があるなら早めに言ってくれないかな? このベンチに座りたいとか?」  少女は首を横に振った。 「じゃあ、君はどうしてさっきから俺をじっと見つめているのかな」  少女の唇が、ゆっくりと開いた。潤いのある唇は、濡れた髪と相まって、色気を感じさせた。     
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