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「私を買って」
少女は、感情のこもっていない声で、言った。男は、ため息をひとつ吐くと、懐からタバコを取り出した。
「タバコ吸うのはやめて」
「どうして?」
「キスするとき、タバコ臭くなる」
「じゃあ、心配無用だ。俺は、君を買うつもりはない」
少女は、男のとなりに腰掛け、男の顔を覗き込んだ。
「どうして?」
「どうしてもだ」
そっけなく男が答えると、少女は怪訝そうな顔をした。
「おかしいな」
「なにが」
「男は、女に下からのぞきこまれると、一発で落ちるって本に書いてあった」
「まあ、間違っちゃいないかもな。君が順番を間違えなけりゃ、俺もころりといってたかもしれない」
「順番? 覗き込んでから、買ってっていえばよかったの?」
「いや、結局、買ってといわれた瞬間に冷めるから、意味はない」
少女は、くすりと笑った。
「変なの」
そうして、再び沈黙がやってきた。
男はタバコを吹かし、少女はゲームの筐体をぼんやりみつめていた。
長らく続いた沈黙を破ったのは、少女の方だった。
「ねえ」
「うん?」
「ゲームしない?」
「おじさんはゲームできないものなんだよ」
「どうして?」
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