弱小男子、強豪女子に(ムボーに)挑む。

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「あれ?」 運動靴が床にこすれる音と号令が反響する体育館に入ると、空いているはずの場所には既に人がいた。 しかも、女子部員が。 「いーち、にーい、さーん、しー」 交互にカウントしながら、2人組でオーバーハンドパスのラリーをしていた。 大星(たいせい)は、傍らの光成(みつなり)()いた。 「今日って水曜だよな?」 「うん」 光成は頷き、大星の肩越しにコートを覗き込んだ。 「女子は今日はグラウンドだと思ったけど」 しかし、目の前の女子部員達は、当たり前のように次々と練習メニューをこなしている。 大星は一際背の高い女子部のキャプテンを見つけると、「おい姿月(しづき)」と呼んだ。 同じ2年生で、中学時代も同じ学校だったので、顔なじみではある。 くっきりした顔立ちの女子部キャプテンは、下級生に指示を出すのをやめてこちらを振り返った。 「なに? 加藤(かとう)」 「いや、なにじゃねえよ。今日は体育館のB面、俺らが使う日だろ」 「あーそうだっけ?」 いかにも忘れていました、という表情をするが、怪しいものだ。 「ボケるにはまだ()えーぞ。わかったらどけよ」 「別にいいでしょ。新人大会あるし」 「はあ? 新人大会なら男子もあるだろーが」 思いきり嫌な顔をすると、姿月は想定内、というふうにこちらを()めつけ、 「だってあんた達が練習したってムダでしょ」 「はあああ?」 「毎年1回戦負けなんだし、うちらが使った方が体育館も有意義じゃない。違う?」 ――こいつ、絶対わかっててコート占拠してやがったな。 大星はむかっ腹が立つのをなんとか抑えた。 ほかの女子部員は、不安げにチラチラ見ている者もいれば、にやにやと腕を組んで見物している者もいて、全員が荷担したわけでもなさそうだった。 「有意義とか関係ねーだろ。毎週水曜はここ、男バレが使うことになってんだから、ルールは守れよ。スポーツマンシップどこ行ったんだよ?」 「マンじゃないしねぇ」 「アキ」 姿月の腕をそっと引いたのは、副キャプテンでセッターの一路だった。 大きな瞳は穏やかで、遠慮がちにさえ見える。 姿月と揃うと、内助の功、という印象だ。 「いいから」と、姿月はその手を下ろさせる。 いいわけあるか、と大星は思う。
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