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「10日ぁ? ずいぶん先じゃない。ああ、ちょっとでも強くなっておこうって魂胆? いいよ、せいぜいがんばんなよ。うちらはあんたらと違って暇じゃないから、3セットでじゅうぶんでしょ」
「そら、ありがたくて泣けるわ」
ふん、と背を返してそのまま練習に戻ってしまった姿月を憎々しげに見送り、大星は光成と水野に「そういうわけだから」と言った。
「大星……」
光成がため息をつく。
「いや、試合するのはいいよ? でも、どう考えてもさ――」
「作戦ならある」
「え?」
大星は、にやりとして2人の肩を引き寄せた。
「ミーティングやるぞ。ほかの3人も連れて」
※
「――で、作戦なんて本当にあるのか?」
いつものファミレスでドリンクバーとハンバーグセット大盛りを注文し、全員分の品が揃ったところで男子バレー部総勢6名の作戦会議が開催された。
呆れたように言ったのはサッカー部と兼業の福沢で、事の顛末を3人から(というか喋ったのは大星と光成の2人だけだが)聞いて目を丸くしたのだった。
「当然、ある」
「え、勝てるの?」
光成はぽかんと口を開ける。
「もちろん、普通にやったら勝てるわけない。姿月のスパイクとかほとんどバズーカだろ」
「うん……」
女子部の試合を見学したときのことを思い出したのか、光成も肩をすくめる。
「じゃあ、あれですかな、なにか非合法な手段でも使うとか?」
メガネをくいっと持ち上げたのは、漫研という名のアニメ同好会に所属する杉山だ。
「なんだよ非合法な手段って」
「シューズや道具に細工するとか、食事に薬物を仕込むとか」
「微妙にやり口が古いっつーか、そこまでするかよ」
呆れたふうの大星にかぶせて、「食事なら僕が作るよ」とにこにこして篠田が言った。料理部のトリックスター、という二つ名がついている。
「そりゃお前の料理なら薬物もびっくりだけどよ……」
大星はもごもごと語尾を濁し、「そういうんじゃねえの! 犯罪的なことはしない! けど、まともにやっても勝ち目はない。ギリギリを狙うんだよ」と力説した。
「ギリギリって何と何の?」と光成。
「卑怯と卑怯でないのギリギリだよ」
「ええ~……」
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