終.そして二人は

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 ふと伊吹が、華蓮の腹部に目をやった。 「だいぶ大きくなりましたね」 「……はい」  八乙女家からの追手はやってこなかった。  和正が『鬼の子を宿した娘』を勘当したためだ。  もう一族の家系図に、華蓮の名が載ることはない。  全ては華蓮の狙い通りだった。 「……俺は、今でも時々後悔することがあります」  伊吹は華蓮の腹部をいとおしげに撫でながら、つぶやいた。 「あの晩、貴方を巻き込み……人としての生活を奪ってしまったことを」 「後悔なんてしないでください。  ……私、言いましたよね。『貴方のためなら死んでもいい』って。私は貴方のためなら……人じゃなくなることくらい、どうってことありません」  伊吹の手を取ると、華蓮はぎゅっと握りしめた。自分の思いが伝わるように。  伊吹は息を呑むと、彼女に応えるように手を握り返す。 「……ありがとうございます。華蓮さん」  そう言った伊吹の顔は、迷いを断ち切ったように晴れ晴れとしていた。 「さあ、朝食にしましょう。今日は天気が良いですから、庭で食べるのも良いかもしれませんね」 「それは素敵ですね……!」  二人は楽しげな会話を繰り広げながら、部屋を出ていく。  部屋の棚の上には、金色のタイピンが日の光を受けて煌めいていた。 終
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