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第一章 鬼騒動
応長のころ、伊勢国より、女の鬼になりたるを率て上りたりといふ事ありて、そのころ廿日ばかり、日ごとに、京・白川の人、鬼見にとて出でまどふ。
(徒然草 第五十段より)
一三一八年(文保二年)
一 春
月には薄雲がかかり、町は静かな闇に包まれようとしていた。
おとといの雪がまだ、そこかしこに残っている。
そろそろ冬も過ぎようかという時期にも関わらず、ひどく底冷えする夜だった。
こんな夜でも鬼騒動は起こる。
昨年来、京の都は連日のように、地震に見舞われていた。それからというもの、各地で僧侶が失踪する事件が頻発。また、僧侶が消える代わりに、狐がやたらと増えた。狐たちはひとを恐れず、貴族の邸にまで入り込むという。
人々の間にはあっという間に不安が広がり、これからもっと、不吉なことが起こるのではないか、その前兆なのではないかと怯える空気が蔓延していた。
そこへきての鬼騒動。
日が沈むと鬼が出る。その鬼が若い娘をさらい、女もいつしか鬼になるという。
初めこそ流言、風説だと笑い飛ばす者もいたが、そんな噂話がいまや、都ではまことしやかに囁かれていた。
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